dimanche 20 avril 2008

Visitor

久しぶりに上質のアメリカ映画。

映画のエンディングというのはいつも難しいと思うけれども、このエンディングは秀逸だった
と思う。ドラムという楽器のチョイスが、怒りを表現する楽器として非常に良い。これが
ヴァイオリンやフルートではフィットしない。

アメリカ映画には珍しく、説明が少ない。多少臭くなりすぎるシーンがあるけれども、
全体的に思わせぶりなところがない。

Visitor というタイトルが興味深い。Terek, Zainab, Mouna が visitor であることは
分かるけれども、Walter も visitor である。少なくとも監督はそう意図したのではないか。
Visitor とは、仮住まいにいるもの、その環境に belong しないものという意味だろう。
Jarmusch の映画と似たような寂しさを感じる。

途中まで、Terek は案外簡単に釈放されるのかなーという甘い考えを持っていた。
これはアメリカの現実をきちんと描写する映画だから、そういういい加減な結末には
至らない。きちんと怒りを表現する作品である。

Terek, Zainab, Mouna は怒らない。彼らは苦境の中で、人生を静かに受け止めて、
そして必ず微笑む。人生はそれでも進んでいく。怒るのはアメリカ人の Walter である。
アメリカのシステムに人々が苦しみ、それに対して怒りを持つのはアメリカ人のみ。
Zainab, Mouna たちはシリアで生きていく。そして、怒りを持ち、精神に何かの
波紋を生じられた Walter が、アメリカで、アメリカ的な環境で、人生を続けていく。
久しぶりに深くヒューマニズムを肯定する、アメリカらしい、アメリカの知性を感じさせる、
ほのかに輝く小品である。

dimanche 6 avril 2008

復讐するは我にあり


基本的に60年代以降の日本映画は見ない。全く期待していないし時間がない。

この映画は、知名度の高さと、今村作品をまだ見ていないので興味を持ってみてみた。

No Country for Old Men のような、チープな、焦点の定まらない作品だと思う。

サスペンスにしたいのか。何かヒューマニティに訴えたいのか。

サスペンスにしてはクオリティが低すぎるだろう。どきどきさせられる事もなければ
何か wit に富んだアイディアがあるわけでもない。

それでは何か深く人間性に問いかけるものがあるのかと言えば何も無い。
大体実話に基づいた作品というのが総じてこういう風に甘い出来なのだろう。
ストーリー重視の映画なら、実話に基づいてはいけないと思う。創造力が
欠けていると言われても仕方ないだろう。よっぽどの出来でない限り、
実話に基づいた映画などというのは作家としての甘えだ。

実話に基づいていて、そこからクリエイティブに人間を浮き上がらせる、という事は
できる。この映画はそんなレベルまでは達していない。これだけのキャストを
使ってこの内容じゃ勿体ないだろう。

俳優人、緒形拳、倍賞美津子、三国連太郎、清川虹子はさすがに巧かった。
しかしあれだけの俳優を使って出せる筈の人間の深い感情というものが
全然無いでしょう。

キリスト教をテーマに使ってどうしたいのか。父子の関係を持ち出してきて、
何を表現したいのか。イカれた殺人鬼を使って何が言いたいのか。
新約聖書から持ってきた意味深なタイトルにどういう意味があるのか。

結局、何か深刻めいた映画を作るのは簡単だという事である。本当に難しいのは
上質の喜劇を作ることである。だから Cohen 兄弟だったら No Country for Old Men
などよりも、Big Libowski が秀逸である。黒沢だったら赤ひげより用心棒が
作品としての質が高い。薄っぺらい偽善的な映画はもう飽きたしそんなものを
見ている暇もない。

mercredi 2 avril 2008

石井桃子さん逝去

石井桃子さんってまだ生きてらっしゃったんですねえ
http://www.asahi.com/obituaries/update/0403/TKY200804020363.html

石井桃子という名前が子供心に覚えやすいのと、何かというと表紙にこの人の名前があるので、面白い本というと石井桃子、という刷り込みがいつの間にかできていたように思う。

調べてみると、自分の幼少期の人格形成における石井さんのインパクトの大きさ、自分の中で重要な位置を占める作品を石井さんが翻訳している頻度の高さ、に驚く。


おそばのくきはなぜあかい



イギリスとアイルランドの昔話



たのしい川べ

ギリシア神話



そして忘れてはいけない

とぶ船


(とぶ船と言ったらこの絵じゃないんだよなー。でもあのくすんだ赤い表紙の画像は見つからなかった)

他にもハンス・ブリンカー、ビロードうさぎ、砂の妖精、ティム・ラビットの冒険
などなど独特の感慨を持って思い出さずにはいられない本ばかり。
こういう目立たない人達が実は知的文化というものの根幹を成しているのではないかと
言いたくなる程です。御冥福をお祈りしたい。